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8月, 1996の投稿を表示しています

「茨城46億年後の一期一会 .7」1996

1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 ・ 5 ・ 6 ・ 7 <高萩 - 犬吠埼・ブレード走行記7 4日目最終日> 4日目/8月3日(土)「割烹旅館かわたけからゴール犬吠埼まで」 ◆ 女将さん大いに喜ぶ! ◆ 4日目の朝も大変だった。朝食を終え、クソをしようとトイレへ行ったら、新妻君もいて連れグソとなった。それはいいのだが、トイレがみな塞がっていたのだ。そりゃあそうだ。サッカー軍団が一気にクソをし始めたのだから。 「オー、マイ、ガァッ!」想わず頭を抱える新妻君。 仕方無く、二階のトイレへ行ってみたのだが、ここもいっぱい。 「オー、マイ、ガァッ!」またもや頭を抱える新妻君。 中では同じようにあぶれた少年達が、青ざめた顔で右往左往している。どうしようもないので、歯を磨いたり荷物を整理したりして時間をつぶし、クソラッシュが終わるのを待つことにした。 そして、ようやく用を足し、三人全員の準備が終わって出発と言うことになったのだが、料金を払うためフロントへ行くと、出て来た女将さんが何やらニコニコして、やたら上機嫌なのである。しかも、 「今日は気分がいいから、ひとり7'000円のところ1'000円ずつおまけして6'000円、消費税もビール代もおまけしとくわ」と言い出したのだ。 と言うことは・・ 、三人分合計23'175円のところ、18'000円。つまり、5'175円も得をすると言うことになる。ふとっぱらー!。いやはや、有り難いことは有り難いが、いったいどうなってんだ? 初めは、スポーツ合宿の騒々しさのお詫びなのかと想った。しかしそれなら、「申し訳無いから」とでも言いそうなものである。それが「気分がいいから」と来た。これにはもっと違う意味が有るはずだ。話しをしながら、あれこれ考えた結果、キャプテンの心当たりはひとつだけだった。それはブレード隊が・・ 「心から感謝を込めて食事をいただいた」と言うことに違いない。 夕食も朝食も、とにかく食事だけは粗末にはしなかった。たぶんその話しを、調理係のオバサンから伝え聞いたのだろう。それを、サッカー軍団のひどい「食い散らかし」と比較してしまったものだから堪らない。「なんて気持ちの良い青年達なの。ナイスガイ!」などと感動してしまったのに違いない。だから「気分がいい」のである。 それしか考えられなかった。何しろ

「茨城46億年後の一期一会 .6」1996

1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 ・ 5 ・ 6 ・ 7 <高萩 - 犬吠埼・ブレード走行記6 3日目後半> 8月2日・金曜日(3日目)「グリル鹿島から波崎町・割烹旅館かわたけまで」 ◆ 今頃ソルボセインかよ・・ ◆ 出掛けに、鹿嶋市パンフレットの地図でスポーツ用品店を見つけていた新妻君が、「ソルボセインの中敷きを買う」と言い出した。なんと、彼はまだソルボセインを使っていなかったのである。 『ソルボセイン』とは、10m以上の高さから生玉子を落としても割れない、と言うほどの衝撃吸収材だが、同様の『αゲル』などと比べると「コシ」が強いので、靴底に入れてもフニャフニャした違和感が無く、自然な使い心地の代物なのである。 これをブレード・ブーツの底に敷くと、アスファルトからの振動を吸収して足を保護でき、疲労もかなり防げる。したがって、キャプテンは以前から、ブレード走行を始める者には『ソルボセイン』を使え、と言い続けて来た。 当然、新妻君もそれを耳にしていたはずで、とっくに使用しているものと想い込んでいたのだが、彼は「そんなことより、ブレードは滑ってなんぼ」とばかり、堅い中敷きのままで間に合わせていたのである。確かに、他人のアドバイスより自らの感覚を信じる、と言うやり方は正しいが、それは継続することにより養われるもので、一発屋には馴染まない。 グリル鹿島から町外れまで滑って行き、『スポーツ101』と言う、この辺りにしては大きめのスポーツ用品店を見つけた。新妻君はそこで『ソルボ中敷き』を購入、店の中で自分の足の大きさにカットして出て来た。 「なんだこれは!? 振動が無い!」 さっそくブレードの底に敷いて滑り始めたその直後の一声である。絶大なるソルボ効果に感動したのだろうか。もちろん一度痛めた足が治ることは無いが、このさき数時間の延命効果としては充分役に立つ。それにしても、最初から使っていれば・・ スポーツ101から離れてしばらくの間は、新妻君に応急処置が施されたことで、少し気を楽にして滑ることが出来た。すでに国道51号からは離れ、124号を進んでいた。 道沿いには、まばらだが、店やレストラン、町工場、中古車ディーラーなどが並んでいた。そこから幾つかの林をくぐり抜け、緩やかな坂道を下り、小ぎれいな民家の立ち並ぶ通りに差しかかった。 そこをさらに進んで、信号待ちで渋滞している交差点が見えて

「茨城46億年後の一期一会 .5」1996

1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 ・5・ 6 ・ 7 <高萩 - 犬吠埼・ブレード走行記5 3日目前半> 8月2日・金曜日(3日目)「民宿大竹から鹿島市・グリル鹿島まで」 ◆ 呪いの見送り ◆ 荷物を担ぎ、民宿大竹の駐車場まで出て行くと、女将さん、その娘、お祖母さんが次々に姿を現した。ブレードの物珍しさゆえの見送りと言うところである。 新妻君と森広君は、すみっこの車の陰でブレードを履き始めたが、キャプテンはギャラリーへのサービスもかねて、ど真ん中で準備することにした。そうしていると、ほどなく女の子が駆けよって来た。 「それで、すべってくの?」 その子はそう尋ねた。それに、ああ、そうだよと愛想良く笑い、 「ここからねえ、ずーっと遠くまですべってくんだよう」 と、キャプテンは子供用の声で答えたのだ。ところがである。 「ウソだね!」 予想に反してカワイくない返事がかえって来たではないか。 「ほんとだよ、ほんとほんと」ちょっとあせった。だが、 「ウソだねー!」と、女の子はなおも続ける。 「ほんとだってば」 「じゃあ、東京からすべってきたの?」 「そうじゃなくて、東京から電車で来て・・」 「ああっ!。ほらー、電車なんだってー!」 その子はキャプテンの言葉尻を取って、そーら見たことかとばかり、女将さんを振り返って騒ぎ出した。 「ちがうちがう、電車で遠くまで行って、そこから滑って来たんだよ。わかる?」 「ええー?」 そこでいったんはおとなしくなったが、声は半信半疑のままである。さらにその子の攻撃は続いた。 「雨がふるよ!」ふてくされたような言い方だった。「雨がふってくるよ!」 ・・ったく、どうなってんだ? 「そうかなあ?。大丈夫だと想うよ」 「ふるよ!。てんきよほう見てみな!」 これはもう、呪いに近いものが有る。でも、確かに雨が降りそうな空だった。気温も低く、温度計を見ると21℃を示していた。寒いくらいだ。 ブレード走行は、舗装道路が無ければ前進出来ないわけで、アウトドアと呼ぶにはあまりに半端なスポーツだったが、それでも自然相手であることには違いない。雨が降ったら、それを甘んじて受け入れるしかないのである。さて、どこまでもつか・・ 女の子はいつの間にかキャプテンから離れ、他の二人のところへ駆けよって行った。その後ろ姿を見ながら「世の中には、いろんな子がいるんだなあ」と想った。 年齢の

「茨城46億年後の一期一会 .4」1996

1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 ・ 5 ・ 6 ・ 7 <高萩 - 犬吠埼・ブレード走行記4 2日目後半> 2日目/8月1日(木)「大洗海水浴場から大竹海岸・民宿大竹まで」 ◆ 昼下がりの・・、大洗海岸 ◆ 昼食を終えたあと、ちょっと長めの昼休みと言うことになった。 森広君は汗に濡れたTシャツを脱いで日なたに乾し、上半身を焼き始めた。とにかくこの男は、すぐ赤く腫れてしまうくせに、一気に焼かないと気がすまないと言うやっかいな奴なのだ。それに引き換え、足の痛みで予想以上に疲労している新妻君は、海の家で有料のシャワーを浴び、気持ちの張りを取り戻そうと懸命である。 その間キャプテンは、海の家のベンチに座って、ワセリンや日焼け止めを塗り直したり、サングラスの汚れを落としたりしていた。その横を、海から上がって来た何人かの男女が通り過ぎて行く。午後の強い陽差しにみな目を細め、シャワー室に入って行くのだった。 何度か、店番をしているオバサン達のカン高い笑い声が聞こえて、また静かになった。そのあとは、通り過ぎる車と風の音しか聴こえて来ない。 「オレにとっては・・、ここは、日本の裏側だ」慣れ親しんでいる天津小湊や九十九里の海に比べると、ここは本当に見知らぬ海だった。 「これが大洗海岸と言うものか・・」どうしようもない寂寥感が胸に迫った。やっぱり、ゴブリンズキャンプは、犬吠埼ではなく天津小湊にした方が良かっただろうか、と想う。 ・・いや、だめだ。あの海には想い出が多すぎる。 やがて、シャワーを終えて来た新妻君が隣のベンチに座った。彼は自分の足に巻かれたテーピングを剥がそうとするが、すね毛が絡みついているのか、何度も「だあー!」と言う激しい悲鳴を上げていた。そのうちたまりかねて、アウトドア・ナイフで毛を切りながらテープを剥がす、と言う荒っぽい戦法に出た。 その時キャプテンは、彼の足首に大きな靴ズレの跡が有るのを見つけた。やはりツメだけではなかったようだ。それを見て、もうこの先、新妻君が復活することは無いだろうと想った。どんな治療を施しても、このまま延々と苦痛が続くだけであり、楽しいことはひとつも無い。ひょっとすると完走さえ危ないかも知れない。 「ワセリン塗っとけよ、ほら」と彼に差し出すと、意外なほど素直に受け取り、靴ズレの患部に塗り始めるのだった。ひとが薦めるものをことごとく拒絶するヘソ曲が

「茨城46億年後の一期一会 .3」1996

1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 ・ 5 ・ 6 ・ 7    < 高萩 - 犬吠埼・ブレード走行記3 2日目前半 >   2日目/8月1日(木)「旅館須賀屋から大洗海水浴場まで」 ◆ ♪シェー、シェー、シェー、シェーふ・・ ◆ 朝9時半。旅館須賀屋の前で出発の準備をしていたその時、新妻君が、あるコマーシャルソングを歌い始めたのだが・・ 「♪シェー、シェー、シェー、シェーフ・・シェーフーズ、パスタ・・シェーフーズ、パスタ・・」高島政伸! なんで、「♪シェーフーズ、パスタ」のところで、土管の中で歌ってるみたいな、あんな、気味の悪い声になってしまうんだ! それが、二日目の出発の始まりだった。 ◆ 東海村、原子力発電所前でエンヤを聴く ◆ 今回の旅の出発前、ゲーム後に入った新宿の喫茶店で、ゴブリンズのメンバー横山君の言葉にひらめいたことが有った。 「今度のブレード走行のBGMには、 エンヤを録音して行こう」 これまで色々聴いて見た結果、走行中のキャプテンの音感にマッチするのは、あたかも空中から聴こえて来るかのような、広がりと厚みを持つサウンドだとわかった。そしてその多くが、環境音楽的ジャンルに集中していたのである。 その話しを聴いて、横山君が、「エンヤとか?」と尋ねたのだ。その直後は、「いやいや、そうじゃなくて」と答えたのだが、喫茶店を出て駅へ向かう途中、「そうか、エンヤと言う手も有るなあ」と想えて来た。そして、そのままレコード店へと向うことになったのである。 その『ENYA』の新しいアルバム『THE MEMORY OF TREES』を聴きながら、今、東海村の『日本原子力発電所』のすぐ横を滑っている。 原発と言うと、もっと殺伐としたところかと想っていたら、高い壁の向こうは、深い森のたたずまいだった。時折り守衛が立ちはだかるゲートが現れ、そこから中を覗くのだが、見えるのはたくさんの木々ばかりだった。 この日本の草分け的原発には、キャプテンの友人のお兄さんが勤めており、むかしその人から色々な話しを聴かされたせいか、とても印象深い走行となった。 『トイレの無いマンション』などと言われ、各地で悶着を起こしている原発だが、じつは、我々はもう発生させる電力のほとんどを使い込んでいるそうなのである。特に夏の甲子園、高校野球の準決勝、日本中がエアコンを付けテレビに夢中になるその瞬間、その年